こんにちは、島根大学の坂口です。

医師として働いていると、キャリアの中で忘れられない症例にいくつか出会います。私にとって、初期研修医2年目の当直で経験した「左肩痛」の60代男性は、まさにそのような症例でした。

深夜の救急外来、前夜の疲れが残る中での診療。心筋梗塞の既往がある患者さんの突然の左肩痛。「これは心臓に違いない」―。当時の私は、教科書的な知識と、前日に聞いた循環器のレクチャー内容に思考を引っ張られ、一心不乱に心臓の検査を進めました。しかし、結果はすべて陰性。

診断に悩む私を前に、患者さんの容態は静かに、しかし着実に変化していました。そして、搬送から2時間後、新たな症状「左手の麻痺」が出現したのです。

この度、医学書院様が運営するWebマガジン「ジェネナビ」にて、この症例を基にした記事を執筆させていただきました。

▼【第19回】エラー症例5 左肩痛ケース ― 誤診ケースの裏側―システム要因の分析と対策
https://gene-navi.igaku-shoin.co.jp/articles/diagnosticerror_021

この記事で私が一番伝えたかったのは、「診断エラーは個人の責任問題ではない」ということです。もちろん、私自身の知識不足や認知バイアスは大きな要因でした。しかし、それと同時に「疲労した研修医が一人で当直する」といった医療システムそのものが、エラーを誘発する土壌になっていたのではないか。

記事では、この症例の診断プロセスを振り返りながら、診断エラーの背景にある「システム要因」を分析し、どうすれば同じようなエラーを防げるのか、具体的な対策について考察しています。

若手の先生方や、これから臨床の現場に出る医学生の皆さんにとって、何か一つでも学びや考えるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

ぜひ、ご一読いただけますと幸いです。