この度、私たちが主導した「親の社会経済的地位(SES)と医師の専門分野選択の関連」に関する研究が、権威あるPostgraduate Medical Journalに採択されました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41263772/

本研究は、日本の医師を対象としたこのテーマの全国規模の定量研究としては初めてであり、日本の医療人材育成やキャリア公平性に関する議論に重要な示唆を与えます。

研究の背景:なぜこの研究が必要だったのか

欧米の研究では、親のSESが子の職業、特に医師の専門分野選択に影響を与える可能性が示唆されてきました。しかし、独自の医療制度や文化を持つ日本において、この関連性がどれほど強いのか、具体的なデータは不足していました。

私たちは、全国の医師3,580名を対象とした横断的なオンライン調査を実施し、専門分野の選択と親の家庭環境(収入、職業、出生地)との関連を多変量解析により評価しました。

研究の主要な発見(結果のハイライト)

私たちの研究は、以下の決定的な事実を明らかにしました。

「医師の父親」の圧倒的な影響力: 特定の専門分野を選択することと、医師である父親を持つことの間には、極めて強い関連性がありました。調整オッズ比は14.46(95%CI: 12.10-17.29)であり、これは親の職業が子の専門分野選択に決定的な影響を与えていることを示しています。

特定の専門分野での偏り: 親の世帯年収が一定の閾値(US$60,000、約1000万円)を超える家庭出身の医師の割合は、脳神経外科(65.8%)、皮膚科(57.0%)で特に高く、特定の分野で高SES出身者が集中している実態が確認されました。

都市部出身の優位性: 都市部での出生もまた、専門分野選択と有意な関連があることが示されました(調整オッズ比 1.65)。

この研究がもたらす示唆と今後の展望

本研究は、親のSESが日本の医師のキャリア選択の鍵となる要因であると結論づけています。この知見は、単なる事実の指摘に留まりません。

教育・実践への影響: 医師のキャリアカウンセリングにおいて、家庭環境による無意識のバイアスを理解し、より公平な情報提供を行う必要性を示しています。

政策への影響: 地域や専門分野間の医師の偏在を是正するための政策を設計する上で、家庭環境という根深い要因を考慮に入れる必要性を示しています。

今後は、SESの多面的な構成要素や心理社会的要因も含めた、より包括的な研究を進めていく予定です。

結びの言葉

この研究にご協力いただいたすべての皆様、そして何よりも熱心にご指導いただいた和足先生、医学生山本さん、大平さんをはじめとする共同研究者の皆様に、改めて心より感謝申し上げます。

この成果を日本の医療人材育成の議論に役立てていけるよう、今後も精進してまいります。

島根大学 坂口公太